防災の取り組みの中には、恐怖を煽る手法が見受けられます。これに関しては、立場の高い人々も推奨している場合があり、様々な意見があることは理解できますが、個人的には推奨できません。
20年以上にわたる防災ボランティアの経験から考えると、恐怖に訴えるよりも、正しい知識を普及させて、災害時にどのように行動すべきかを考える方が効果的です。事前の準備や対策を進めることで、実際の災害発生時に迅速に対応できるようになるでしょう。
結論として、「着実な準備」が重要だと考えます。
人間は「正常性バイアス」を持っており、災害対策を一時的に行っても、やがてその恐怖感が薄れ、元の状態に戻ってしまいます。ですから、恐怖心に頼るのではなく、理論に基づいた準備を淡々と進めることが最も効果的です。
脅しを利用した防災
【脅しの防災とは?】
脅しの防災とは、災害リスクを過度に強調し、恐怖心を煽って行動を促す方法です。このアプローチは災害の被害を大きく見せて危機感を煽り、緊急対応を促します。しかし、この方法の効果は短期的なことが多く、以下のようなデメリットが生じます。
【脅しの防災のデメリット】
恐怖による行動の抑制 恐怖心を煽ることで一時的に行動を促すことはできますが、過剰な恐怖は逆に無力感を生み出し、行動を取らなくなることもあります。「どうせ逃げられない」「意味がない」と感じることで、災害への対応が抑制されてしまうのです。
誤った情報伝達のリスク 災害リスクを誇張しすぎると、誤った情報が広まる危険があります。これにより、必要な備えが見過ごされる可能性があり、防災対策そのものへの信頼が損なわれます。
心理的負担の増加 過度な恐怖にさらされ続けると、心理的なストレスが蓄積されます。災害が頻繁に起きない地域では、このストレスが鈍感さを引き起こし、住民が防災情報を無視するようになりがちです。
行動の持続性が低い 恐怖に基づく行動は一時的で、時間とともに元の状態に戻ることが多いです。これにより、災害への長期的な意識や行動が持続しにくくなります。
【正常性バイアスとは?】
正常性バイアスは、リスクや脅威を過小評価し、通常の生活を続ける心理的な傾向を指します。災害の危険性を理解していても、「自分には関係ない」と思い込んで、行動を取らないことが一般的です。このバイアスは、以下の要因で強まります。
【正常性バイアスの要因】
過去の経験による安心感 過去に災害を経験しても、自身や周囲が被害を受けなかった場合、「次も大丈夫」と誤った安心感を抱くことがあります。
リスク情報への鈍感化 繰り返し同じ警告を聞くと、情報に対して鈍感になり、警告を無視する傾向があります。特に大きな被害が発生しないと、「またか」と考え、重要な情報を見過ごすことがあります。
集団行動の影響 周囲の人々が危機感を感じず通常通りに行動していると、自分も同じ行動を取ろうとします。会社や学校など、集団行動が強調される場ではこの傾向が特に顕著です。
一貫性のない情報提供 災害情報が一貫していない場合、受け手はどれを信じるべきかわからなくなり、「結局大丈夫だろう」と結論づけてしまいます。
【脅しの防災と正常性バイアスの関係】
一見、脅しの防災は正常性バイアスを打破するように見えるかもしれませんが、逆に正常性バイアスを強化してしまう場合があります。恐怖に慣れてしまうことで、次第に無視されるようになるためです。
【正常性バイアスを打破するための方法】
正常性バイアスを克服し、実効性のある防災行動を促すためには、恐怖を煽るのではなく、現実的で具体的な対策を提供することが大切です。
正確なデータに基づく情報提供 恐怖に頼るのではなく、過去の災害事例や具体的な対応策を提示することで、現実感を持たせることが重要です。
具体的な行動指針を提示 「災害が起こる可能性がある」だけではなく、何をすべきか具体的な行動を示すことが有効です。
前向きなメッセージ 恐怖を煽るよりも、「備えることで守れる」など、前向きなメッセージを発信することで、意欲を高めることが期待できます。
社会的サポートの強化 地域や会社での防災訓練や、SNSを活用した情報共有を通じて、コミュニティ全体で防災意識を高めることが重要です。
ある団体のリーダーから、「防災対策は学んでも2か月しか続かない」と言われたことがあります。ですが、災害はいつ誰にでも突然襲ってくるものです。